【アドラー心理学】人間関係が楽になる「課題の分離」の「もう一つの要素」とは

「課題の分離」という考え方をご存知でしょうか。

初めて知ったときは「当たり前じゃん!」という印象と、ずっと悩んでいたことがこの理論によってすっと消えていくような不思議な感覚に陥ったのを覚えています。

実践的で使いやすいのに奥が深い言葉で、完全に理解して活用するまでにかなりのパラダイムシフト(常識を見直して覆し、受け入れる)を要します。

さて、本稿ではそんな「課題の分離」を初めて聞く方にもわかりやすく紹介した上で、もう一歩深くまで探っていこうと思います。

  • 1.課題の分離とは
  • 2.具体的な場面
  • 3.こんな場面で使える
  • 4.実は大切なもう一つの要素
  • 5.現実的に考えて
  • 6.まとめ

考え方次第では、人生が変わるかもしれません!?

◆人付き合いに悩まれている方には、この記事もオススメです。

1.課題の分離とは

課題の分離とは、アルフレッド・アドラー(1870~1937)というオーストリアの精神科医・心理学者が提唱した理論です。

フロイト、ユングと同時期に活躍した人で、今では書店で多数の本を見かけます。
みなさんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

そんなアドラーが唱えた有名な理論のひとつに「課題の分離」があります。
簡潔にまとめると、「他人の課題に勝手に介入しない。そして、自分の課題に勝手に介入させない。」という考え方です。

ここでいう「課題」とは、最終的に責任を引き受けるのはだれか?が基準となります。

例えば、「宿題」は子どもの課題です。
もしやらなくて損をする(責任として不利益を被る)のは子どもだからです。

当たり前のことだと思うかもしれませんが、「課題の分離」を学ぶと、現代では、結構責任の所在が曖昧になって話がこじれてしまうケースが多いことに気づきます。

2.具体的な場面

では、具体的に見ていきましょう。

先の例の「宿題」でいうと、親が子どもに「宿題しなさい!終わるまで晩ごはんはありません!」のような指導場面があったとします。これは、課題の分離という視点では大きな誤りなんです。

簡単に言うとこうなります。

なぜ、親が「晩ごはんなし」と決められるのでしょうか。
子ども自身が「終わるまで晩ごはんなしにしよう」ならわかります。

晩ごはんを食べるか否かは子どもの権利なのです。

さらに詳しく見ていきます。

宿題をしなくて困るのは子ども自身なので、宿題が子どもの課題であることは先に見ました。

いやいや、親である私も困るのよと聞こえてきそうですが、本当にそうでしょうか。
親が子どもを想って、そして勉強で困らないためにという考えがあるのはよくわかります。

しかし、本当に困るのは子ども本人のはずです。

親は親自身の人生で困ることはありません。
子どもが勉強についていけなくても、親自身の知識量が減るわけでもなければ仕事がなくなるわけでもない。親は「かわいそう」と「勝手に」思うだけです。

非情にも見えなくもないですが、そうではありません。

「かわいそうだから勉強できるようにさせてあげないと」という考えは、「親の道具としての子ども」という側面が浮き彫りになります。

すなわち、そんな指導場面にいる親は、子どもを通して自分が満足したいという隠れた思いがあると推測できます。

親子であっても、それぞれの人生があります。

子どもの人生に親が干渉してはいけない。そして、親子である前に人と人である。

こんなことを「課題の分離」は教えてくれます。

3.こんな場面でも使える

受験に関して、こんな場面でも使えます。

大学に進学しようと思っているAさん。学びたいことがあり、○○大学に通いたいと思っています。
しかし、ここでAさんの両親が反対します。

「○○大学なんて、就職に強くないのは目に見えている。それなら安定した仕事に就きやすい△△大学にしなさい。」

Aさんは、両親の言うことが間違っているとは思いませんでしたが、どうしても○○大学に行きたいと思い、悩んでいます。

ただ、これまでお世話になった両親に面倒をかけたくない、しかも学費も一部お世話になることを考えると、両親の意見を優先するしかないと思っているのも事実で、板挟みになっています。

進路について、親子で意見がぶつかるという、よくあるお話です。

このとき、課題の分離という考え方が大きな力になります。

また課題を分けましょう。
進学先を決定するのは誰の課題でしょうか。

これはAさんの課題です。
なぜなら、進学した先に「いい会社」に就職できない未来があったとしても責任を負わなければいけないのはAさん本人だからです。

では、両親の言うことは間違っているのかというと、そういう訳でもありません。
両親は親という立場からAさんのことを心配して言ったのです。

問題は、両親からの言葉である「△△大学にしなさい」のところ。
もし「△△大学にする手もあるよ」と提案的に述べ、かつそこに圧迫感や強制力がなければ課題の分離は上手くできていることでしょう。

しかし、今回は「しなさい」と使役的、指示的に言っています。Aさんに最終決定権があるのにも関わらず。

そしてAさんも、自分に決定権があるのにも関わらず、他者に「自分の課題に勝手に介入させて」しまっています。

仮にAさんが両親に対し、こう言ってみるとどうでしょう。

「もし私が○○大学に行かず、一生後悔することになったら、なんとかしてくれるのね?」と。

Aさんは最終決定権が自分にあることを明確にしつつ、両親との対話を重ねる。
Aさんの両親は、提案的に意見を伝えつつもAさんの想いを尊重する。

これが課題の分離から見える1つの答えです。

◆下記記事も参考にしてみてください。

4.実は大切な、もうひとつの要素

再度確認すると、課題の分離とは「他人の課題に勝手に介入しない。そして、自分の課題に勝手に介入させない。」という考え方でした。

自分は介入「しない」し、「させない」の2つの条件から成り立つことがわかります。

さて、こんな場合はどうでしょう。

会社の上司Bさんが、部下のCさんに対し、「もっと営業の方法を考えた方がいい。君の業績が最近落ちてきているし、このままいくと私まで叱られてしまいそうだ。もっとうまくやるべきだ。」

Cさんは課題の分離を援用し、「いや、叱られるかどうかはBさんの問題だと思います。僕は僕のやり方でやりますし、例えクビになるようなことになっても次にしたい仕事につくだけですから。」と返しました。

このように、課題の分離をもとに、おせっかい上司を一蹴するのが適切なのでしょうか。

いや、そうではありません。

課題の分離には大切なもう一つの要素「共通の課題」と言われるものがあります。

これは、課題が分けきれない場合に発生するものです。

今回の場合、会社の業績を上げることは上司Bさんだけの課題ではありません。
会社という組織は利潤を追及するものですから、むしろ反対にその会社に属する人全員が持つ課題です。

ということは、Cさんは「数字が上がらないのは僕の問題だ、ほっといてくれ!」とは言えないのです。

では、なぜこんな会話になってしまうのか。
もう一度課題を確認しましょう。

そもそも、Cさんはなぜ先のように攻撃的になったのでしょう。
きっと、Bさんの言い方やCさん自身が最近の数字に悩んでいたこと辺りでしょう。

このことから、それぞれの課題が見えてきます。

Bさんの課題…伝え方を工夫し、Cさんが一番励まされる声掛けをする。
Cさんの課題…共通の課題と真摯に向き合い、気持ちの対象をBさんではなく、自分自身に向ける。

共通の課題であることをお互い認識しながら、それぞれの課題を丁寧に遂行することで要らぬ争いは生まれなさそうです。

5.現実的に考えて

そうはいってもCさんの側に立った場合、Bさんの物の言い方には少し腹が立ちませんか?

また、Bさんの側に立っても同じく違和感を覚えませんか。
両方が課題の分離を知っていて、それをひたむきに実践している場面などそうないでしょう。

そんなとき、どう考えればいいのか。

それは、とにかく対話を重ねることです。
そして、相手に自分の課題を認識できるように伝えていくことです。

Bさん
「言い方がまずかった、申し訳ない」
「会社として一緒に業績を上げていきたい」
「Cくんの力になりたい」

と、Cさんの気持ちを尊重する言葉がけをすると良いでしょう。

それでも攻撃的に返答される場合は、課題の分離をして「上司として言うべきことは言った。あとはCくんの課題だ。」と思えばいいのではないでしょうか。

Cさん
「ご指摘ありがとうございます。でも、僕自身も悩んでいて・・・」
「わかっているのですが、上手くいかなくて。そして、そんな言い方をされてしまうと少し困ってしまいます。ところで、どうすればいいですか?」
「Bさんならどうしていますか?」

というような、自分の課題をしっかり相手に伝えると同時に、勇気があれば2つ目の相手の課題を指摘するようなことができるといいと思います。

もしそれでBさんが怒ってきたら、同じく課題の分離をし、自分の課題に介入させないことを指針にすれば良いでしょう。

6.まとめ

シンプルで奥が深い課題の分離。ただ課題を分けて考えるだけでなく、共通の部分を明確にし、お互いに歩みよる姿勢が大切でした。

課題の分離は、一歩間違えれば人と人とを分離するためのものにしかなりません。

そうではなく、むしろ突き詰めるほどにその距離を縮めるものであることが見えてきます。

みなさんも課題を分離して明確にし、場面ごとの最適解を探してみてはいかがでしょうか。